質問:生命保険の保険金は差し押さえできるのでしょうか?
知人にお金を貸していますが、返済されていません。その知人が死亡保険金の受取人になっていると聞きました。貸したお金の回収のために、その死亡保険金を差し押さえることはできるのでしょうか。
回答:対象になる可能性はありますが、個人で直接回収できるものではありません
ご質問のように貸した相手が死亡保険金の受取人なら、被保険者が亡くなる前でも、死亡を条件とする請求権が差押えの対象になり得ます。ただし、その時点で保険金を受け取れるという意味ではありません。最高裁判決(2016年4月、PDF)は受取人の破産財団への帰属を判断した事案で、その理由の中で一般債権者による死亡前の差押えも可能と述べています。個別の貸金を直ちに回収できると判断した判決ではありません。
一方、借金をしている人が契約者なら、解約返戻金に関する権利が論点になる場合があります。受取人の請求権と契約者の返戻金に関する権利は同じものではありません。
貸した相手が返済しないからといって、債権者が保険会社へ直接連絡して保険金を受け取れるわけではありません。金銭債権の差押えは、通常、債務名義をもとに裁判所へ申し立て、裁判所の命令を通じて行う手続です。具体的な可否や進め方は、弁護士、司法書士、裁判所、保険会社に確認してください。
同じ生命保険でも、債務者が持つ権利が異なれば、差押えの対象や確認手順も変わります。
債務者が保険金受取人
死亡前後で権利の状態を分ける
- 死亡前も条件付き請求権が差押えの対象になり得る
- 死亡後は保険金請求・支払の状況を確認する
- 受取人変更などの影響を専門家へ確認する
債務者が保険契約者
解約返戻金に関する権利を確認
- 解約返戻金のある契約か
- 差押えが契約継続へ与える影響
- 受取人の介入権が使えるか
債務者が被保険者のみ
本人に財産権があるとは限らない
- 契約者と受取人を別に確認
- 債務者自身が持つ権利を特定
- 被保険者という立場だけで判断しない
税金の滞納処分
民事執行と同じ扱いとは限らない
- 税務署等からの差押通知を確認
- 滞納処分の根拠と対象権利を確認
- 徴収担当・保険会社・専門家へ相談
「死亡保険金は受取人の固有財産」という説明は、遺産分割との関係を示すものです。受取人本人の債権者からも常に差し押さえられない、という意味ではありません。
差押えが可能でも、死亡前に保険金は支払われません
被保険者の死亡前に差し押さえられる可能性があるのは、受取人の条件付きの請求権です。契約者が受取人を変更したり、契約を解約したりすると、差し押さえた権利の内容や回収の見込みに影響します。保険料を誰が払ったかだけでは、権利の持ち主を判断できません。
被保険者の死亡後でも、保険会社が既に支払ったかどうかで確認する対象は変わります。支払前の保険金請求権と、支払後に受取人が持つ預金などを同じものとして扱わず、弁護士に時点と手続を伝えてください。
死亡保険金と相続財産は同じとは限りません
契約者と被保険者が同一で、別の人が死亡保険金受取人に指定されている一般的な契約では、死亡保険金は受取人固有の財産と説明されます。ただし、民法上の相続財産、相続税の課税関係、受取人自身の債権者による差押えは、それぞれ別の論点です。
被相続人が保険料を負担した死亡保険金は、相続税上のみなし相続財産となる一方、本来の相続財産ではなく遺産分割の対象にならないと国税庁は説明しています。これは「亡くなった人の債権者」との関係の話であり、「受取人自身の債権者」による差押えまで防ぐという意味ではありません。受取人や保険料負担者を確認し、相続・税金・債務を分けて考えましょう。
解約返戻金が差し押さえられたときの契約継続
保険法には、保険料積立金のある契約について、債権者等が保険契約を解除しようとしたとき、一定の受取人が契約を存続させる「介入権」があります。死亡保険契約では、解除の効力は保険会社が解除通知を受けてから1か月後に生じます。その間に、条件を満たす受取人が契約者の同意を得て所定の額を解除権者へ支払い、保険会社に通知すると、解除の効力が生じない場合があります。
誰でも使える制度ではありません。保険法は、原則として解除通知時点で契約者または被保険者の親族、あるいは被保険者本人である受取人を対象とし、契約者自身は除いています。起点は「自分が通知を読んだ日」ではなく、保険会社が解除通知を受けた日です。保険法第60条と生命保険文化センターの保険法解説を参照し、通知を受けたらすぐ保険会社と法律の専門家へ確認してください。
裁判所手続と専門家確認が必要です
差押えは、相手の財産に強制的に関わる手続です。裁判所の債権執行の案内や申立て等で使う書式を確認し、実際に進める場合は弁護士や司法書士に相談してください。
また、保険会社には個人情報や契約情報の取扱いがあります。第三者が契約内容を確認できるとは限らないため、正式な手続を通じて必要な情報を確認することになります。
相談前に手元の資料を確認する
- 貸付契約書、振込記録、返済履歴など、貸した金額と未返済額が分かる資料
- 判決や和解調書など、債務名義に当たる可能性がある書類
- 分かる範囲で、借り手が契約者・被保険者・受取人のどの立場か、被保険者の生死と保険金の支払状況
- 既に届いた裁判所・保険会社からの通知と、その受取日
第三者が保険証券や契約情報を入手できるとは限りません。分からない項目は推測で埋めず、弁護士に情報の確認方法も相談してください。
次にやること
貸付の資料と債務名義の有無を整理し、分かる範囲で借り手の契約上の立場を確認してください。差押えの対象・申立て・回収可能性は個別事情で変わります。まず弁護士や、取扱業務の範囲を確認した司法書士へ相談し、具体的な手続は裁判所の案内も確認しましょう。
差押え、相続、税金は同じ結論になりません。
法的判断は弁護士や司法書士、税務判断は税務署や税理士、保険契約の内容は保険会社へ確認してください。差押通知や裁判所の書類には期限がある場合があるため、受け取った書類をそのまま相談先へ持参します。